SEARCH THE ARCHIVE

サイトを横断して探す

楽曲名、歌詞、物語、Lore、言葉の背景から検索できます。

楽曲一覧へ
ベガに架ける錨のジャケット。天の川、古銀の錨、女性の後ろ姿を描く
歌詞を読む

[Verse1]

全天方位の硝子の天球
それは投映されたホログラム
あなたの手首を強く掴んだ
瞳は光を奥へ吸い込んだ
唇に散るよう
掬う言葉も音なく流れた
幾重に重ねた僅かな刻を
あなたは覚えてない
身体に浮かぶ消えない痣は
記憶に写した確かな証

[Pre-Chorus1]

あなたの記憶が覚めるほど
私の欠片は消えていく
壊れては消えゆく 
破片のように
見上げた天球に弧を描いた
あなたの輪郭が映る前に
硝子が曇る前に
私はあなたに問うの

[Chorus1]

ベガに錨を架ける
銀河の核から 
白銀の帯を貫き
光年の彼方まで
流光の天ゆく川に
消された星図を描く
フェリスの航路を辿るように
香箱を組むように
残りの刻の全てを重ねて
「いいでしょう?アルタイル」

[Pre-Chorus2]

あなたの意識が夢見る底に
私の欠片は沈んでいるの?
もがくほど絡みつく
螺旋のように
意識の水面を震わせた
あなたの輪郭が浮かぶ前に
波紋が還る前に
私はあなたを想うの

[Chorus2]

ベガに錨を架ける
銀河の核から 
流光の帯を貫き
光年の彼方まで
深層の淵を蹴り上げ
消された星座を目指す
フェリスの航路を辿るように
境界を裂くように
残りの刻の全てを重ねて
「待っていてアルタイル」

[Bridge]

境界面に佇む私は
僅かな刻を繰り返す
それでも欠片は砕け落ちた
天球の瓦解を乞うかのような
救われた過去すら壊して
一つの意思で欠片を接ぐ

[Final Chorus]

ベガに錨を架ける
銀河の核から 
光陰の帯を引き裂き
光年の彼方まで
四方の星を見据えて
消された星座を書き換える
フェリスの航路を辿るように
星座のかたちを組むように
ベガに架けた錨に
残りの刻の全てを懸けて
私はあなたに願うの
「覚めないでアルタイル」

Track 10 / Featured work

ベガに架ける錨

ANCHOR TO VEGA

繰り返す刻を知る「私」と、その時間をほとんど覚えていない「あなた」。投映された夢の天球で、「私」は失われた星座を航路に変え、目覚めへ向かう「あなた」をつなぎ止めようとする。

LISTEN / 楽曲を聴く

リリース日
UPC
700971339269
ISRC
QT9XG2613375
レーベル
Happy Hands Records

About the song

この曲の中心にある問い

『ベガに架ける錨』は、夢の中で繰り返される僅かな刻を描いた物語です。冒頭の「投映されたホログラム」は、ここが現実の夜空ではなく、現実から切り離された仮構の世界であることを示しています。

「私」は同じ時間を幾度も重ねてきたことを知っています。しかし「あなた」は、そのほとんどを覚えていません。この記憶の非対称のなかで、「私」は失われた星座Felisを航路に変え、ベガへ錨を架け、消えようとする世界と「あなた」をつなぎ止めようとします。

曲の言葉と響きは一見美しく、切実な恋の祈りにも聞こえます。しかし、その中心にあるのは純粋な別離の悲しみだけではありません。「愛する人との世界を残したい」という願いは、どこから「相手を目覚めさせたくない」という執着へ変わるのか。その境界を、あえて美しい言い回しの内側に隠しています。

Story

繰り返す夢と、静かな執着

投映された硝子の天球

二人がいるのは、全天方位のホログラムとして投映された夢の内部です。美しい星空に包まれていても、それは曇り、ひび割れ、やがて砕ける仮の世界です。冒頭から、現実とは異なる場所で物語が進んでいることが示されています。

覚えている「私」、覚えていない「あなた」

「私」は僅かな刻が繰り返されていることを認識し、そのたびの時間を積み重ねています。一方の「あなた」には、二人で重ねた記憶がほとんど残りません。同じ夢にいながら、二人は同じ時間を生きてはいないのです。

消えない痣

「私」が強く掴んだ手首に残る痣は、忘れられた時間を身体へ写した証です。同時にそれは、記憶から消されることを恐れ、「あなた」を確かな痕跡でつなぎ止めたい衝動の強さも映しています。

Felis航路

現在の88星座から消えたFelisを、定められた境界の外側を通る航路として呼び戻します。「消された星図」は、忘れられた二人の記憶と重なり、失われたものを再び世界へ刻むための道になります。

「一つの意思」による書き換え

砕けた欠片を接ぎ、星座を書き換えようとするのは、二人の合意ではなく「私」の一つの意思です。世界の崩壊へ抗う行為は救済であると同時に、「あなた」の目覚めさえ受け入れない強い執着でもあります。

「覚めないで、アルタイル」

最後の言葉は、「この夢のような時間が覚めませんように」という比喩ではありません。「この夢から覚めないで」と、「あなた」が現実へ戻ることそのものを拒む呼びかけです。世界を終わらせたくない祈りに聞こえながら、その瞬間、隠されていた「私」の執着が静かに露出します。

Research / Lore

作品の背景にある知識

Felis ― 消えた猫の星座

Felisは、フランスの天文学者ジェローム・ラランドが1799年に提案した星座です。うみへび座とポンプ座の間の暗い星々を猫の姿に見立て、1801年のボーデの星図にも描かれました。しかし、現在IAUが定める88星座には含まれていません。

ベガ

こと座で最も明るい恒星で、夏の大三角の一角。地球からおよそ25光年にあり、青白く輝きます。七夕文化では織女星として知られます。

アルタイル

わし座で最も明るい恒星で、地球からおよそ17光年。七夕文化では牽牛星・彦星に重ねられ、ベガと天の川を隔てた物語を持ちます。

天の川をどう見たか

日本・中国では恋人を隔てる川、西洋では「乳の道」として語られてきました。オーストラリア北東部のヨルングの文化には、天の川を天空の大河として捉える伝承があります。別の文化では、道や祖先の物語として夜空に意味が重ねられました。

消えた星座

星座は自然に線が引かれているものではなく、人が星の配置を読み、境界と名前を与えたものです。IAUは1922年に全天を覆う88星座の一覧を採用しました。それ以前には、Felisのように定着しなかった星座も数多く提案されていました。

夏の大三角と天の川

ベガ、アルタイル、デネブがつくる夏の大三角は、天の川を見つける手がかりになります。曲では実際の星の配置を、夢の世界を横断する巨大な座標へ置き換えています。

From fact to fiction

知識を、物語へ変換する

FACT / FELIS かつて提案された星座

現在の88星座からは外れた、猫の星座。

FICTION / FELIS航路 定められた境界の外へ抜ける道

消された星図を、忘れられた時間を刻み直し、夢の世界を書き換える航路として再構成。

FACT / 錨 船をその場に留める道具

流されることを防ぎ、位置を固定する。

FICTION / ベガの錨 夢と「あなた」を固定する執着

崩壊する世界だけでなく、目覚めへ向かう「あなた」まで宇宙の座標へつなぎ止めようとする象徴。

FACT / 星座 人が夜空に与えた境界

歴史の中で選ばれ、整理されてきた天空の区画。

FICTION / 書き換え 「私」の意思による結末への抵抗

既存の境界を裂き、二人の合意ではなく「私」ひとりの意思で世界と星座を組み直す行為。

FACT / 目覚め 夢を終え、現実へ戻ること

眠りの世界から離れ、日常の意識を取り戻す。

FICTION / 覚めないで 「あなた」の帰還を拒む願い

美しい別れの言葉に聞こえながら、「あなた」を夢の内部へ留めようとする不穏な執着。

References

参考資料

  1. International Astronomical Union — The Constellations(88星座の成立)
  2. NASA Astronomy Picture of the Day — Stars of a Summer Triangle(ベガ・アルタイルの距離と特徴)
  3. NASA Science — Summer Triangle Corner: Vega(ベガと夏の大三角)
  4. Ian Ridpath, Star Tales — Felis(Felisの星図史)
  5. The British Museum — Altair, Vega and the Milky Way in Tanabata imagery(七夕の文化的背景)
  6. The Metropolitan Museum of Art — Gulumbu Yunupingu, Ganyu (Stars)(ヨルング文化における天の川)
楽曲一覧へ